だいすき  だいすき











「お? あれは…」


見慣れた人物を見つけ、梁太郎は不意に足を止めた。


赤みを帯びた長い髪を後ろで束ねた少女。


椅子に腰掛けたまま、本を枕にするように寝息を立てている。


「おい、日野」


声をかけながら近づくが、全く起きる気配はない。








なんというか、あまりに無防備だ。

ヴァイオリンも鞄も、隣の椅子に置いたまま。

しかも、近づいても全く起きる気配がない。

ただでさえ図書館は盗難が多いのだ。

これでは、盗難にあっても文句は言えないだろう。



それに、こんなに起きる気配がないなら、
誰かに何かされていても絶対に気づかない。



確かに寝顔は可愛い…と思う。

だからこそ、尚更無性にイラついてしまう。








「おい、日……っだ…」


顔を寄せ、もう一度声をかけた瞬間。


突然目を覚ました香穂子の後頭部が、見事に梁太郎の額にヒットした。


「痛ったぁ…」


「痛ってぇ…」


香穂子は後頭部を擦り、梁太郎は額を擦る。


まだ何が起きたのかよくわかっていないであろう香穂子は、
不思議そうに梁太郎の方を振り返った。


「あれ、土浦君…?」


悪びれた様子なくきょとんとこちらを見つめる香穂子。


確かに、香穂子は悪くない。


悪くはないのだが…なんとなく釈然としなくて、
思わず眉を寄せる。


「…お前、危なすぎる」


色々な意味で、と付け加え、梁太郎はため息をついた。








----------------------------------------------------------------------








「ホントにごめんなさい…」


大方の事情を理解した香穂子は、
帰路の途中、何度目かの謝罪の言葉を口にする。


「これはお前が悪いわけじゃないんだから、そんなに気にするな」


危なっかしいのは確かだが。


そう付け加えながら、まだ軽く痛む額を擦る。


「…でも、土浦君も図書館で勉強してたんだったら、一緒にやればよかったね」


軽く口を尖らせて見せる香穂子。


そういう仕草も可愛らしくて、思わず頬が熱くなりそうなのを抑える。


「そんなこと言って、数学教わる気満々だろ?」


「うん。教えてね?」


悪びれた様子なく微笑む香穂子に、梁太郎は小さくため息をつく。


この笑顔に実は弱い。


「今度、うちで一緒に勉強しようよ。教えてもらいたいところあるし…」


早速教わる気満々かよ。


とはあえて突っ込まず、
梁太郎は再び小さくため息をつきながら苦笑をもらす。


「別にいいが、勉強にならないかもしれないぞ?」


「え? なんで?」


きょとんと不思議そうにこちらを見つめる香穂子。








この顔は、本当にわかっていない顔だ。

香穂子は、無自覚でさらりと言うから性質が悪い。








人気がないのを確認してから、
梁太郎は小さくため息をつき、香穂子の手を取って抱き寄せた。


すっぽりと腕の中に収められ、香穂子は頬を赤くする。


「ちょ…っ、土浦君…っ」








お前と二人きりになると、こうしたくなるから。








先程の問いに答えるように耳元でそう呟くと、
梁太郎はその仄かに色づく唇にキスを落とした。
















うん??
久しぶりすぎて土浦君がわからなくなったぞ(死)
なんかあれですね、コルダ創作は香穂視点からのが圧倒的に多いので、なんか難しい…(笑)
でも日頃三十路組の創作ばっかりかいてると、なんか新鮮な感じがします(笑)













↑お気に召しましたら、ポチっとお願いしますv