この空の下 このそらのした
想い出がたくさん詰まった正門前の広場。
香穂子にとって、ここから全てが始まった。
リリに出会い、コンクールに参加することになって、
学園再興のためにコンサートを開き、コンミスも勤めて。
個性溢れる仲間とも出逢えた。
そして、金澤紘人にも 。
辛かったことも、彼がいたから乗り越えられた。
いつでも香穂子を応援してくれて、時には叱ったり。
初めは、なんて適当な教師なんだろうと思っていた。
けれど一緒に過ごし心を通わせていくうちに、
彼は本当は情熱的な人で…とても優しくて強い人だということがわかった。
学院で共に過ごした日々は短かったけれど、
その一つ一つが明るくて、幸せで。
ここであったことは、決して忘れない。
忘れることなど出来ない。
片手には卒業証書を、もう片方の手にはヴァイオリンを持って、
香穂子はオレンジ色に染まった正門に向かって静かに歩き始めた。
今はまだ遠い空の下にいるけれど、
きっといつか胸を張ってその隣を歩けるようなヴァイオリニストになる。
それが、香穂子の夢だった。
きっとこれが新しい一歩となる。
正門の前まで来て、香穂子はぴたりと足を止めた。
見覚えのあるシルエット。
言葉を失ってしまう。
「…よっ、日野」
変わらぬ微笑みが嬉しくて、驚いてしまって。
「またこんな時間まで練習してたのか? ホント真面目だなぁ、お前さん」
香穂子はその胸に飛び込んだ。
まるで子供をあやすように、紘人はその背を抱き締める。
「…来れないって…言ってたじゃないですか…!」
「公演が終わってから急いで向かったんだ」
苦笑を漏らす紘人に、
香穂子は溢れそうになる涙を必死に押さえながら笑みを見せた。
「…遅すぎです…」
「おいおい…これでも早い方なんだぞ?」
「…わかってます。ホントに、嬉しい…」
その胸に顔を埋める。
この腕の温もりが暖かくて、嬉しくて。
背に回されたこの腕が、とても優しい。
「…ありがとう、先生…」
素直に、気持ちを伝える。
こうして逢えて、声を聴けて、本当に嬉しい。
自分のためにこうして来てくれたことが、幸せでたまらない。
「あー…っと、そろそろ行くか」
そっと差し出される手。
見上げると、紘人はどこか照れているような顔をしていて。
香穂子は嬉しそうに笑みを浮かべてその手を取り、静かに歩き出す。
ぎゅっと重ねられる手のひら。
自分の手よりも大きいその手は、
少しだけごつごつしていて、暖かくて優しい。
「香穂子」
不意に名前を呼ばれ、その顔を見上げた。
卒業おめでとう。
優しい声が紡がれると共に、
香穂子の唇に甘い口付けが落とされた。
はい、卒業編です!
式に金やんが来ててもいいんですが、なんとなく夕陽の中で二人きりにしたかったのです(笑)
う〜ん…音楽室も捨てがたいんですけどねv
まあ、甘めにはなったのではないかとw
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