My Dear   だいすきなひと















「…あと30分、か…」


白い息を吐きながら、
司郎はセットが崩れない程度に髪をかき上げる。








司郎が待ち合わせ場所である観覧車の前に来てから、30分。

かなでとの待ち合わせ時間まで、あと30分。



かなり早く来すぎてしまった。



かなでが早く来ると思っているわけではない。

むしろ、彼女は少し遅れてくることの方が多い。



けれど。



司郎の姿を見つけ、彼女は駆け寄ってくるだろう。

もしかしたら、
少し天然の入っているかなではつまづいてしまうかもしれないけれど。

その姿も、きっと愛おしくてたまらないのだ。








「火積くん…っ?」


ぱたぱたという足音と、聞き覚えのある声。


そして。


「わわ…っ」


案の定、何もないところで足をもつれさせ、
かなでの身体がふわりと浮かぶ。


いつものことのように、
慌てる様子もなく司郎はその身体を抱きとめた。


「ご…ごめんね。ありがと」


ゆっくりとこちらに向けられた眼差し。


なんとなくその距離がいつもよりも近い気がして。


司郎は頬が熱くなるのを抑えながらふいと目を逸らす。


「あんたは…危なっかしすぎる」


「…でも、転びそうになっても…こうして火積くんが助けてくれるよね?」


ふふ…と、どこか悪戯気にも見える笑みを浮かべるかなでに、
困ったような…照れくさいような、なんとも言えない気持ちになる。








いつも助けられるわけじゃない。

こうして傍にいられる時間は短いのだから。



けれど。



こうして傍にいられるときは、助けてあげたい…とは思う。

その危なっかしいところを治してほしいとも思うのだが。








「そういえば!」


思い出したように大きな声を出すかなで。


「火積くん、いつから待ってたの? 身体、すごく冷えちゃってるよ?」


心配げな…けれど少し怒ったようなかなでの瞳に、
30分待っていた…とは言えず、司郎は思わずたじろぐ。


「いや…その、そんなに…待ってねぇよ」


「…今日こそは、早く来ようと思ったんだけどなぁ」


子供のように頬を膨らませるかなでに、思わず口元が緩んでしまう。


「別に、いいんじゃねぇか…?
その……
あんたを待ってる時間も悪くはねぇし…」


ぼそりと小さな声で付け足された言葉。


だが、それはしっかりとかなでの耳にも届いたようで、
司郎にふわりと嬉しげな笑みが向けられた。


「でも、やっぱり遅刻は良くないよね。
それに…」








少しでも長く、いっしょにいたいから。








ふわりと、かなでの顔が司郎の胸に埋められる。


良く考えてみれば、つまずいたかなでを抱きとめたままだった。


「…っ、おい……っ」


途端に恥ずかしくなった司郎は身体を離そうとするが、
腕の中のかなでは、気持ちよさそうに笑みを浮かべていて。


冷えていた司郎の身体も、いつのまにか温まっている。


いや、むしろ…熱いかもしれない。








あと…少しだけ…だ。








司郎は顔が熱くなるのを感じながら、
そっとその小さな背に腕を回した。




















クリスマス創作…のはずなんですが、全くもって間に合わなかったため通常創作に(笑)
一応デート設定だったはずなのですが…デートしてねぇぇぇぇ!(笑)
いや、でもちょっとだけ前進した火積くんです!
一応…お付き合い始め、な感じ。
デートが待ちきれないっていう可愛い火積くんを書きたかった…!
それにしても、うちの火積くんはじれったいな…(笑)



















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