願い  ねがい         ―望美Side―












静かな夜。

どうしても眠りにつけず、望美は月を眺めていた。

敦盛と初めて出逢ったのも、こんな月の夜だった。






京の屋敷に迷い込んできたきた敦盛を匿って。






そう古い出来事ではないはずなのだが、とても遠い昔のように感じる。


「敦盛さん…」


ぽつりと呟いた瞬間、不意にどこからか聴きなれた笛の音が聞こえてきた。






優しく…どこか切なく、心に響く音。






望美はその音を辿って歩き出した。

離れた縁側までやってきて、望美は不意に足を止める。






月の光に照らされた敦盛

その姿は美しく、儚げで…今にも消えてしまいそうで、切ない。






「…っ、敦盛さんっ!」


望美は思わず駆け寄り、敦盛の身体を抱き締めていた。






その存在を確かめたくて。

その温もりを感じたくて。






「神…神子…?」


敦盛は驚きで目を丸くしながら、望美の手にそっと触れる。


「…ごめんなさい。でも、敦盛さんが消えちゃうような…そんな気がして…」


苦しくて、望美の瞳に涙が滲む。






怨霊の身である敦盛。



いつか消えてしまうのではないか…と。

いつかいなくなってしまうのではないか…と。






望美はいつも不安になる。


「…大丈夫だ。私は…ここにいる。神子の…傍に…」


優しく微笑んだ敦盛は、ふわりと望美の身体を抱き締めた。


優しく…だが、力強く。


この温もりが、嬉しくて…愛おしい。


いつまでもこうしていたい…と、望美は月にそっと願いを込めた。











月よ。

どうか、この人と…ずっと一緒にいられますように      




















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