愛おしい人  いとおしいひと












「いい天気ですね〜」


澄み渡る青空に満足そうに笑んだ望美は、
柵に両手をかけて身を乗り出すように景色を見下ろす。


腕を組んだ泰衡は柵にとんと寄りかかり、
その姿をまるでやんちゃな子を見守る親のように見つめていた。


「あまり身を乗り出すな。落ちても知らんぞ」


「大丈夫ですよ。その時は、泰衡さんが助けてくれるでしょう?」


悪びれた様子もなくにっこりと微笑む望美を見て、泰衡は小さく溜め息をつく。








少しくらい危なくとも、傍に泰衡がいれば何でも出来る。

ぶつぶつと文句を言いながらも、
本当に危なくなったときは泰衡が必ず助けてくれる。

それを知っているから、望美は安心して何でも出来るのだ。



あの戦いの時から、ずっと。








「…ありがとう、泰衡さん」








ふいに、望美はぽつりと呟いた。


その姿を泰衡は不思議そうに眺めている。


「私、泰衡さんと出逢えてよかったです。この平泉に来れて…」


突然何を言い出すのか…とそう語っている泰衡の瞳を、望美はじっと見つめる。








ずっと、そう思っていた。

この平泉に来て、泰衡に出逢えて      泰衡に恋をして。



意地悪で、性格も悪い。

何事も一人で決めてしまうし、いつだって素直になれないひねくれ者。

だが、本当は誰よりも優しくて、強くて、暖かい人だということを望美はちゃんと知っている。








「泰衡さんが、好きです」








まっすぐに、静かに紡ぐ言の葉。

何度も泰衡に伝えられた想い。

何度口にしても足りないほどに、泰衡を想っている。

きっと、初めて逢ったあの時から。








「…そんなことは知っている」


どこか自信に満ちた瞳で泰衡は笑みを見せる。


そんな姿が可笑しくて、望美はクスクスと笑みを零す。


「ね…泰衡さん、今日が何の日か覚えてますか?」


「何かあったか?」


やっぱり…といった反応に、望美は悪戯気に笑みを浮かべて泰衡の顔を見上げた。


「今日はね…」








     初めて逢った日、なんですよ?








もう一度にっこりと微笑む。








秋から冬へと変わろうとしていた頃。

九郎たちと共に平泉にやってきて、初めて出逢った。

始めはなんて嫌な人なのか…とそう思っていたが、
その胸に秘めたものを知るうちに、望美はどんどん泰衡に惹かれていた。



きっと、ずっと忘れられない日。








「良くそんなものを覚えているな」


「泰衡さんとのことは全部覚えてますよ?」








大好きな人との想い出を忘れるはずがない。

忘れられるはずもない。








にっこりと笑みを見せた望美は、そっと目の前の手のひらを包み込んだ。


「行きましょう、泰衡さん?」


どこか呆れたような楽しそうな紺碧の瞳を覗き込み、望美はゆっくりと歩き出した。








ゆっくりゆっくり、前へと進む。

『ありがとう』の気持ちと、『大好き』の気持ち。

とても大切で、いつでも想いが溢れる。






ずっとずっと、一緒にいられますように         


この手の温もりに、そっと想いを込めた。



















サイト開設2周年ということで書いてみましたv
テーマはズバリ! 記念日!
ですが、あんまり出来てない感じですね(苦笑)
夏に秋のお話っていう中途半端な…(笑)



















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