この、温もり。 この、ぬくもり。
この胸の内は、誰も知る必要などいない。
誰かに知って欲しいとも思わない。
誰かに干渉しようと思ったこともないし、干渉されたいと思ったこともない。
そうして…自分はずっと独りで生きるものだと、ずっとそう思っていた。
腕の中で心地よさそうに寝息を立てる少女を、泰衡はそっと抱き締める。
胸にかかる暖かい吐息。
静かに響く鼓動が、とても心地好い。
この腕の中の温もりが、泰衡を変えた。
時空を越え、共に歩く道を探し出した少女。
強い心と眼差しを持ち、
まるで野の花のように凛とした美しさを持っている。
眩いほどの強さを持つ少女。
「泰衡さん…?」
ふにゃ…とまるで赤子のような無邪気な笑みを見せる望美。
その髪をさらさらと撫で、泰衡はそれにそっと口付けを落とした。
「…まだ陽は昇っていない。もうしばらくは眠っているといい」
「ずっと…起きてたんですか?」
「眠れなかっただけだ」
起きてたんじゃないですか…とクスクス微笑んだ望美は、そっと身体を起こす。
その姿も、声も、全てが愛おしい。
初めて、欲しいと思った。
初めて、愛おしいと思った。
初めて、全てを自分のものにしたいと…そう思った。
他の誰でもない、この少女を。
「やっぱり、この時期って夜は涼しいですね」
戸を開け、望美は縁側に腰掛ける。
月の光に照らされ、輝く。
その姿を自分だけのものにしたくて、泰衡は背中からそっと包み込んだ。
「や…泰衡さん?」
「…暑苦しいなら、振り払っても構わんぞ」
「そんなこと、しませんよ」
どこか嬉しそうに微笑み、望美は泰衡の腕にそっと触れる。
なぜか、今日は望美をこの腕の中に閉じ込めておきたいと…そう思ったのだ。
「泰衡さんが甘えてくれるのは、すっごく珍しいですから」
悪戯気に笑む望美に、泰衡はどこか照れくさそうに視線を逸らした。
甘える…ということがどういうことなのかはわからない。
だが、こうしていたいと思う。
傍にいて欲しい…と。
「…望美」
「はい?」
静かに、言の葉を紡ぐ。
お前を、愛している。
初めて紡ぐ、想いの言の葉。
望美の瞳が、驚きで丸くなっているのがわかる。
「泰、衡さん…」
月明かりでもわかるほどに紅潮した望美の顔。
その唇が開かれる前に、泰衡は己の唇でそれを塞いだ。
返事など、聴こうとは思わない。
ただ、この想いを口にしたかった。
この唇から伝わる熱が…この胸に感じる鼓動が、
とても愛おしくて。
泰衡は、何度も何度も口付けた。
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