休息の時間  きゅうそくのじかん












「出来た〜!」


糸を留め、針を山に差し、望美は満面の笑みで完成品を見つめる。






後ろでゆるく結ばれた紫紺の髪。

じっとこちらを見つめる紺碧の瞳。

その眉間には少しだけシワが寄せられていて。

自分で言うのも何なのだが、とても似ている。



我ながらよく出来た…と、
完成したぬいぐるみを見つめながら、改めてそう思う。

何日もかけた甲斐があったというものだ。






「…なんだ、それは?」


不意に背後から聴こえた、聞き慣れた声。


ゆっくりと振り向き、望美はにっこりと笑ってみせる。


「上手に出来たと思いませんか?」


「それは……」


「泰衡さんですよ。すっごく似てると思うんですけど…」


ふふふ…と満足そうに笑む望美に対し、泰衡の眉間のシワは深くなる。


「……くだらん」


望美が一生懸命作ったぬいぐるみは、一瞬にしてひょいと取り上げられてしまった。


「何するんですかっ! 返してくださいっ」


必死に取り戻そうともがくが、すぐに泰衡に制されてしまう。


「全く…何が目的でこんなものを…」


溜息混じりに呟く泰衡。


その姿に対し、
望美はあくまで強気に…だが、少し寂しげにぼそりと呟いた。


「…泰衡さんの代わりです」


「何…?」


望美は続ける。


「泰衡さん、ずっとお仕事が忙しいでしょう?
最近は一緒にいられる事だって少ないし…」


段々と、俯いてしまう。


「今日だって、ここへは何か取りに戻っただけでしょう? だから…」


しゅんと肩を落とす望美。


泰衡がじっと見つめているのがわかる。






傍にいられなくても、一緒にいるような…そんな気分になるだろう    と。

そう思って一生懸命作ったぬいぐるみ。

丁寧に一針一針縫って、泰衡に似せて。



一緒にいたいというのは、自分のわがままだとわかっている。

仕事が忙しいのもわかっているし、泰衡が疲れているということもわかっている。

だからこそ、望美はこのぬいぐるみを作ったのだ。






俯く望美の隣に、泰衡は静かに腰を下ろす。


「…望美」


名が呟かれるのと同時に、目の前にぬいぐるみが差し出される。


受け取り、その顔を見上げると     


泰衡は困ったような…だがどこか照れたような、なんとも複雑な顔をしていた。


「あの…」


「…せっかく作ったのだろう」


「はい…ありがとう、ございます」


「礼を言うところではないと思うが」


そういえば、これは泰衡に取り上げられていたのだ…と今更思い出す。


「……どこか、出かけたい場所はあるのか?」


「え…?」


「今日は…お前に付き合おう」


「あの…でも、お仕事は…?」


この白い季節にまだ外は明るい。


この時分ならば、本当だったら泰衡はまだ仕事をしているはずだ。


「…一日くらい構わんだろう」


ふいっと、泰衡は顔をそらす。


照れ隠しのその仕草が、何だか可愛らしくて…嬉しくて。


思わず望美にも笑みが零れる。






「…じゃあ、ここでゆっくり休んでください」






望美の言葉を聴いた泰衡は、ゆっくりと振り返る。


「今日はここで私と一緒にゆっくり過ごしてください。それだけで…いいです」


泰衡は少しだけ驚いた顔を見せたが、
微かに笑みを浮かべ、「そうか…」と小さく呟いた。








二人で過ごす、ゆったりとした空間。

静かに流れる時間は、
ゆっくりと…だがとても早くも感じられるほどに幸せなもので。



望美は寄り添うように、そっとその肩に身体を預けた。

















アラモにてゲットした泰衡のぬいぐるみを見ててなんとな〜く浮かんだお話。
まあ、この時代にちゃんとぬいぐるみが作れる材料があったかは不明です(笑)














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