望月に  もちづきに












「絶対来てくださいね! 約束ですよ!」








半ば強引に取り付けられた約束。

しおらしくなったり、かと思えば突然強気になったり。

未だに、あの少女の心は読めない。






くるくると表情を変え、喜怒哀楽が激しい。

一見判りやすいようにも思えるが、
予想もつかないようなことをやってのけたりもする。

本当に興味深い

見ていて、飽きることが無いのだ。








大社の高台で、貴女は一人佇んでいた。


まだ雪が残る寒い夜で、寒そうに己の肩を抱いている。






ふわり…と、俺はその身体を抱き締めた。






一体いつから待っていたのか。

俺よりも小さなその身体は、すっかり冷え切っていた。






「や…泰衡さんっ」


「…この時間に薄着とは、いかがなものか」


「さ…寒くないから平気です!」


俺が含んだ言い方をすると、貴女は頬を膨らませながら言い返す。


その姿が、子供のようで…無邪気で微笑ましくも思える。


「泰衡さんこそ、いつも薄着じゃないですか」


「俺は慣れている」






貴女と違ってな…と、優しいとは思えぬ笑みを見せ、その頬にそっと触れた。

頬も、鼻の頭も、この寒さで赤くなっている。






「でも、いいんです。これから慣れるから」


まるで子供のように舌を出し、貴女は空を眺めた。


「…今日は、これを一緒に見たかったんです。ここだったら、すごく綺麗だろうなって思ったから…」


そっと共に見上げると、漆黒の空には月が浮かんでいた。






美しく輝きを放つ、望月。

太陽の光を受けたその輝きは、同じ名を持つ貴女をも照らす。

この手を離してしまったら、飛び立ってしまうのではないかと、

そう思うほどに貴女の横顔は儚く、美しい。






「泰衡さん?」


「…天女には、なってくれるな」


不思議そうに見つめてくるこの少女の身体を、もう一度強く抱き締めた。






この手から離れていってしまわぬように。

この手から消えていってしまわぬように。






「ちゃんと、ここにいます」






ふわりと優しい笑みを浮かべ、貴女は真っ直ぐと俺を見据える。






「私はここにいます」






まるで俺の心を見透かしているようで、自分が大きく鼓動を打つのがわかる。






「ていうか、泰衡さんがダメだって言ってもここにいますよ?
泰衡さんの隣は、誰にも譲りません」


にっこりと…だがどこか悪戯気な微笑み。






この少女には敵わない…と、そう思う。

修羅の道を歩ませてしまったこの俺は、
もうこれ以上は望んではいけないと…そう思っていた。

いや、今でもまだ…そう思っている。

きっと、これから先もずっと。



だが、貴女がそう望むのなら。






「う〜ん…怒ってます?」


急に黙った俺の顔を、貴女は心配そうに覗き込む。


「…私の、正直な気持ちですからね?」






     泰衡さんの隣は、私にください。






俺の目に映った貴女は、恥ずかしそうで、

寒さで冷えていた頬は、熱を持っていて。






「…そうだな。俺の隣は貴女に…。だが、俺としては隣よりも…」






      この腕の中にいて欲しいものだ。






俺の言葉に頬を更に赤く染めた貴女を愛おしく感じ、

俺はその柔らかな唇に何度も口付けを落とした。


















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