濡れ鼠  ぬれねずみ        *5周年記念アンケート創作*












「すごい雨…」


空を眺めながら、望美はぽつりと呟く。








先程までは太陽が燦々と輝く青空だった。

それが、今ではバケツをひっくり返したのではないかというほどの
豪雨に変わってしまった。








「泰衡さん、大丈夫かな…?」


そろそろ、泰衡の帰る刻限。


館を出たときは天気も良かったし、雨が降るなど想定もしていなかった。








迎えに行ったほうがいいだろうか。








そう思った時だった。


「望美?」


ふいに聴こえた声に振り向けば、そこには泰衡の姿があった。


雨降る中を来たのか、濡れた身体からは水が滴り落ちている。


「泰衡さんっ」


望美は慌てて手ぬぐいを取り出し、
泰衡の頭に被せると、髪の水分を取るように軽く押さえつける。


「あんなにすごい雨だったのに…っ」


そのまま帰ってきたんですか?


驚きの声を上げる望美に、
泰衡は何事もないかのように被せられた手ぬぐいを取る。


「待っていてすぐに雨が止むとは限らないだろう?
ならば、雨に構わずに進んだほうが早い」








お前が待っているとわかっているのだからな。








さらりと紡がれた言葉に思わず頬が熱くなるのを押さえて、
望美はその顔を見上げる。


「で、でも…こんなにびしょ濡れじゃ、
いくら夏でも風邪引いちゃいます!」


早く脱いで下さい!


そういって泰衡の衣に手をかける望美。


だが、不意に泰衡がどこか含んだ笑みを浮かべているのに気付き、
思わず手を止める。


「な…何ですか?」


「お前も昼間から大胆になったものだと思ってな」


「大胆って……」


一瞬その言葉の意味がわからずきょとんとする望美であったが、
途端に顔を紅潮させ、思わず衣から手を離す。


「そ…そういう意味じゃ…っ」








確かに衣を脱がせようとはしたけども、当然そんな意味もなく。

けれど自分のやろうとしたことの大胆さに、なんだか恥ずかしくなってしまう。








望美のそんな様子を楽しんでいるのか泰衡は笑みを浮かべており、
恥ずかしいやら悔しいやらで、望美は軽く頬を膨らませる。


「…泰衡さんなんて、
勝手に風邪でも何でも引いちゃえばいいんです!」


「これはこれは…神子殿のご機嫌を損ねてしまったようだ」


望美が機嫌を損ねれば、
必ずと言って良いほどに口にする皮肉にも似た言葉。


初めて出逢った時から変わらない所でもある。


「…っ、泰衡さ…っ」


思わず怒鳴ってしまいそうになったその瞬間。


衝撃と共にやってきた湿っぽい感触。


気付けば、望美は泰衡の腕の中にいた。


「ちょ…っ…泰衡さんっ」


濡れたままの泰衡の身体。


ぴたりと密着したせいで、望美の衣も段々と湿気を帯びてくる。


腕から逃れようともがくが、泰衡はその腕の解く様子はない。


「二人とも濡れちゃってどうするんですか!」


声を荒げる望美に、泰衡は含んだように再び口角を上げた。








では、早く脱がねばならんな。








「……は?」


思わず、口元が引きつってしまう。


まさか、とは思う。


まさかとは思うが…そのまさかであった。


「風邪を引いては大変だ」


泰衡の手が、するりと望美の胸元に寄せられる。


「や、泰衡さん…っ」








お前も、脱がせてくれるのだろう?








にやり…と、
泰衡がそんな笑みを見せたのはおそらく見間違いではない。





















うん???
一位創作なのに、甘いのかそうじゃないのかわからん出来に…(汗)
なんか泰望創作「大人な子供」の続編的になりましたな(笑)



















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