宿望  しゅくぼう












「泰衡さ…」


泰衡の姿を見つけた望美は、そこまで口にして思わず口を噤んだ。






長い透廊から、今はもう使われなくなった屋を泰衡は見つめていた。

それは今までに見たことがないほどに険しく、厳しい表情で。

その姿は今にも泣き出してしまいそうで、見ていて辛くなる。

その理由は、望美にもわかっていた。






秀衡が亡くなった場所。


あの場所は、泰衡が秀衡を討った場所なのだ。

あれから随分と時が経った今でも、
泰衡は時折、ああしてあの場所を見つめている。

あんなにもに苦しそうな顔で。






こんなとき、望美に出来ることは

ただ、いつものように…泰衡に接することだけ。

それしかない。






「泰衡さん」


静かに歩み寄りながら言の葉を紡ぐ。


こちらの姿に気付くと、
泰衡はいつものように…だがどこか安堵したような表情を見せた。


「神子殿…」


「こんな所にいたんですね。探しちゃいました」


にっこりと笑みを浮かべながら、その横に立つ。


「いい天気ですよね〜。お散歩日和だと思いませんか?」


「…そうだな」


小さく呟かれた言葉。


その表情からは、先ほどまでの険しさは少し消えていた。


だが、その奥はまだとても苦しんでいるように見えて…やはり胸が痛む。






それでも、
『貴女と共に生きていたい』と…そう言った泰衡のあの言葉を、望美は信じている。






泰衡の腕にしがみつくように、望美はそっとその手を包み込んだ。


望美よりも大きいその手の温もりを感じ取る。






「…私は、ここにいますから。
もし世界中の人が敵になっても、私だけは…泰衡さんの傍にいますから」






やわりと微笑む望美を、泰衡は驚いたように見つめる。


だがその瞳はすぐに優しくなり、泰衡の顔には微かに笑みが浮かんだ。


「本当におかしな方だ」


「本気ですよ?」


「…ああ、貴女は…そうなのだろうな」


ふわりと抱き締められる。






その腕の中は暖かくて、心地いい。

やはり、この人が好きなのだ…とそう思う。

強いけれども、脆く…弱い人。

そんな泰衡が、とても愛おしい。










強く、なれますように。

この先もずっとこの人を支えられるくらい…強い女性(ひと)になれますように。




繋がれた温もりを、手離すことの無いように。

望美はそっと、泰衡の背に腕を回した。























お久しぶりに切なめなのをかいてみましたv
うん、でも微妙な甘さを残しつつ…って出来てたらば良いのですが(汗)

互いに、互いのために強くなっていく。
そんな人が好きなのですw

























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