大切な人  たいせつなひと











「んーと……こんなものかな?」


まとめられた荷を見て、望美は大きく息を吐いた。








鎌倉に追われ、辿り着いた地。

この荷の多さが、
この地でどれだけの時間を過ごしてきたかを物語っていた。

ここを離れるのは少しだけ寂しいけれど、
これが新しい生活の始まりになるのだ。








「神子殿」


不意に声をかけられ、
望美はゆっくりと振り返り、にこりと微笑んだ。








声だけでわかる。

とても大切で、大好きな人。








「意外と多くなっちゃいました」


肩を並べるように望美の隣へと足を進める泰衡を見つめながら、
過ごしてきた日々を懐かしむように笑みを浮かべる。


「…寂しいか?」


「寂しくないって言ったら嘘になりますけど、
でも…これからは泰衡さんと一緒にいられますから」








そう。

これからは、共に同じ館で過ごすことになる。



夫婦として。



初めて出逢った時には、
こんな気持ちになるなど思ってもいなかった。

人を大切に想う気持ちも初めて知った。








「…寂しいのなら、時折ここに来ればよかろう」


「たまに、ですか…」


どこか『時折』を強調しているようにも聞こえる言葉。


「…帰る場所は、俺のところだろう?」


ふと、引き寄せられる。


その腕が温かくて、優しくて。


笑みがこぼれる。








誰よりも大切で、何よりも大切な人。








「ちゃんと泰衡さんのところに帰ってきます。だから…」


そっとその背に腕を回し、その顔を見上げる。


「泰衡さんも、ちゃんと帰ってきてくださいね? 私のところに…」


悪戯気な笑みを見せれば、
それに答えるようにそっと唇が寄せられた。



















結婚寸前のお二人って所ですね。
なんとなく、望美の実家は高館って感じがします。



















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