包み込むように  つつみこむように












「ふう…」


寝台に腰掛けると、千尋は思わず溜息をついた。








即位してから1年。

まだ不安定なこの国のため、千尋は毎日のように執務に追われている。

風早たちはあちこちで起きる様々な小さな事件を解決するために村へ向かっていて、
最近では会うことすら滅多になくなってしまっていた。

そのせいか、即位してからというもの気が緩む暇もなく、
淡々と執務をこなす日々が続いていた。

つい一月ほど前、旅立ってしまった彼と再会を果たしたものの、
この数日は顔を見ることすら出来ていなかった。








「…カリガネ、元気かなぁ…」


こんな時に思い出すのは、大切な人の顔。


この国に…すぐ近くにいるとわかっているのに、逢うことが出来ない。


それは、彼が遠い異国にいる時よりも淋しくて。


だが、執務を放って彼に逢いに行くことも出来なくて。


そんな自分がもどかしかった。








「…逢いたい…」


ごろんと仰向けに寝転がり、溜息混じりに呟いた時だった。








「…誰に逢いたいんだ?」








「ひゃ…っ」


突然聞こえた声に驚き、千尋は思わず飛び起きた。


今まで誰も居なかったはずなのに目の前には大好きなその人が居て、
つい目を疑ってしまう。


「カ…カリガネ…!? どうやって…っ」


「…窓だ。もっと警戒したほうがいい。簡単に入れる」


少し呆れたような…怒っているようなそんなカリガネの口調。


王としては無防備すぎるのかもしれない。


だが、そんなことよりも…何よりも、カリガネに逢えたことが嬉しい。


千尋はどんな顔をしていたのか。


気付くと、カリガネが不思議そうに千尋の顔を見つめていた。


「あ…っと、カ…カリガネは、どうしてここに?」


誤魔化すように発した言葉が何だかぎこちなくなって、
余計に恥ずかしくなる。


カリガネはそんな千尋の様子に気付いているのか、気付いていないのか。


いつものように、優しく微笑みながら千尋の頬に触れた。








「君に、逢いに来た」








その言葉があまりにもさらりとしていて、思わず言葉を失ってしまう。


けれど、そのまっすぐな言葉が嬉しくて、千尋の顔にはすぐに笑みがこぼれた。


「私も…あなたに逢いたかった」


「…そうか」


どこか嬉しそうにも見えるカリガネの瞳。


そんなちょっとしたことにも嬉しくなる。


「千尋…これを」


ふいにカリガネが包みを取り出し、布を解く。


布に包まれていたものは、一口サイズの焼き菓子のようなものだった。


「甘いものは、疲れを癒す」


「え…?」


見透かされているような言葉に、思わずドキリとする。


「そんな顔…してるかな?」


「…働きすぎだとは思う」


「…そっか…」


久しぶりに逢えたのに。


こうして心配させてしまうことが何だか情けなくなる。


「…千尋、口を…」


「え…? …っん…」


何が起きたのか気付いた時には、すでに千尋の口には菓子が運ばれていた。


久しぶりに味わうカリガネの菓子。


それがとても懐かしくて、自然と笑みが零れ落ちる。


「…ん……美味しい」


千尋の嬉しそうな顔に満足したのか、カリガネの顔にも笑みが浮かぶ。


「…ありがとう、カリガネ。それに…心配させてごめんなさい」


「いや…」


そっと、カリガネの手が千尋の頭を撫ぜる。


「君が喜んでくれたのなら…それでいい」


優しく微笑むカリガネ。


その微笑みが、いつも千尋を安心させてくれる。








カリガネは、いつも千尋を包み込んでくれる。

優しく…力強く。

カリガネがいるから、頑張れる。

いつも力をくれるのだ。








「カリガネ」


ふいにその名を呼び、その唇に口付けを落とした。


不意をつかれた口付けに、カリガネはきょとんとしている。


「…大好きよ、カリガネ」


その身体にぎゅっと抱きつく。








この人が、安心して帰れる国を作りたい。

どんな壁も感じることのない、豊かな国を。








「…私、頑張るよ。日向の人も…安心して暮らせる国にしてみせる」


「千尋…」


「だから…帰ってきて。私の所に…」








私があなたの帰る場所になるから。








そう呟き、カリガネの瞳を見上げる。


カリガネは一瞬驚いた表情を見せたが、ゆっくりと千尋の背に手を回した。


「…約束しよう」


ふわりと笑みを浮かべ、カリガネはゆっくりと千尋の唇に己のそれを重ねる。


唇に、全身に温もりを感じながら、千尋はゆっくりと目を閉じた。

















初カリガネ創作でした!
でも、うん…?途中になにやらわからなくなり、なかなかはちゃめちゃな仕上がりに。。。。。
とりあえず、うちのカリガネはようしゃべりますな(笑)














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