君を想う瞬間  きみをおもうとき












「もうすぐ、桜…咲きそうですね」


にっこりと、千尋は微笑む。








いつからだろう。

この少女が築く国を見てみたいと…そう思ったのは。



いつからだろう。

この微笑みを守りたいと…そう思ったのは。








「覚えてますか? 約束」


試すようなそんな瞳で忍人を見つめる千尋。


「…覚えていないな」


「そんな…本当に覚えてないんですか!?」


途端に曇るその瞳。


ころころと変わるその表情がまた愛らしくて。


思わず口元が緩んでしまう。


忍人にからかわれていると気づいた千尋は、
再びくるりと表情を変えた。


「忍人さんっ!」


まるで風船のように膨らみ、紅潮した頬。


そんな千尋をなだめるように、忍人はそのふわふわとした髪をさらりと撫でる。


「…桜を見るんだったな。君と、二人で…」


いつだったか、交わした約束。


「約束、守ってくださいね」


「一度約束してしまったものは仕方がないからな」


「仕方ないって…っ」


荒げられたその声を聴く前に、忍人は強引にその唇を口付けで塞ぐ。


「ん…っ…」


始めは抵抗を続けていた千尋も、
観念したのか、忍人に身を委ねるようにその背に手を回した。


抱き寄せたその身体はとても華奢で、
だが…全てを包み込むように優しく…暖かい。


「…不意打ちなんて…ずるい…」


唇が解放されると、
千尋はまるで幼子のように唇を尖らせて忍人を見上げた。


だが、不機嫌な顔は一瞬で、その顔はすぐに喜びの色へと変わっていく。


「一緒に…行きましょうね」


「…ああ」


千尋の温もりを感じながら、忍人はふいに空を見上げた。








---------------------------------------------------------------








「忍人さんっ」


忍人の姿を見つけ、千尋は嬉しそうに駆け出す。


「千尋…? もうすぐ式典の時間だろう? こんなところで何を…」


今までとは違う衣を身に纏い、千尋は満面の笑みを見せる。


「桜が満開なんです!」


「ああ…そういえばそうだな」


「はい! 今日にでも見に行けますね!」


いつも以上に弾んだ千尋の声。


どれだけこの約束を楽しみにしているのかがよくわかる。


「…そんなことを言いにきたのか?」


「そんなことじゃないです! 大事なことなんですよ?」


「君が王に即位する大切な式典の直前だろう」


「私にとっては、忍人さんとの約束も大切なんですっ」


力強く言い切る千尋に、思わず忍人は言葉を詰まらせた。


「私には、とってもとっても大切なことなんです…」


その瞳がとても真剣で。


忍人の胸が、締め付けられるように痛んだ。








何よりも大切なこの少女が国を築く姿を見届けること。



それが、自分にとって一番大切なことだと思っていた。

それが、この少女の微笑みを守ることになるのだろうと…そう思っていた。








「千尋…」


言いかけた時、遠くから千尋を呼ぶ声が聞こえた。


もう式典の時間なのだろう。


千尋の瞳がほのかに曇る。


「…じゃあ、私…行きますね」


作られた笑顔に見える陰り。


忍人は思わずその身体を抱き締め、呟いた。


「…夜桜も、悪くないかもしれない」


この約束が色褪せる前に、その約束を果たしたいと…そう思った。


「え…?」


「式典が終わったら…見に行こう。桜を…」


みるみる、千尋の顔が笑顔に染まる。


「はいっ」








この笑顔が、好きなのだ。

無邪気で、明るくて、まるで子供のような…愛らしい笑顔。

何が起こっても守り続けたいと…そう思った。








「行って…きますね」


どこか照れくさそうに…だがその温もりを名残惜しむように、
千尋はやんわりとその腕を解く。


「ああ…」


「ちゃんと見ててくださいね」


ぱたぱたと慌しく、千尋は忍人に背を向けて駆け出した。


その姿を、忍人は穏やかに見つめていた。








この少女が幸福になることが、自分の幸福に繋がる。



その事に、今ようやく気がついた。

自分が隣にいることで千尋が笑顔になれるなら、迷うことなど何も無い。

月に照らされ舞い散る桜の中で、この想いを告げよう。





この世の誰よりも、何よりも、

君を愛している、と           

















久しぶりの遙か4です!忍千です!
設定としては『花弁』の直前辺りなので、そう考えるととっても切ないお話になります。
が、ノーマルED前の幸せな時間です。一応…。。。

忍人は、きっと誰よりも千尋が王になるのを望んでるんじゃないかと思うわけです。
だから、忍人にとって即位の式典はとても大切なわけで。
でも千尋にとっては忍人さんとの約束も大事なんですね。
その微妙な恋心に気づく忍人さんを書きたかったのですが…できてるかなぁ??(オイ)
いつか連載書きたい感じもしますなww
なんかやっすーと同じ匂いがします(笑)














↑お気に召しましたら、ポチっとお願いしますv