ここにある笑顔  ここにあるえがお        *5周年記念アンケート創作*












中つ国の若き王の執務室。


たった一人、その机に伏して寝息を立てる姿を見て、
忍人は思わず大きく溜息をついてしまった。


「…道臣殿、これは…」


「陛下も色々お疲れなのですよ」


ふわりと微笑む道臣。


「だが、これは…」


あまりにも無防備な姿に、言葉を失ってしまう。


「さすがに陛下をお一人には出来ませんから。
かといって、寝顔を拝見しているわけにも参りませんし…」


ここで待っていました。


入り口を指差し、再びにこりと微笑む道臣。


「葛城将軍も来られたことですし、後はお任せします。
本日はこのままお休み頂くようにお伝えください」


踝を返す道臣の笑顔に、
どこか含んだものが見えたのは気のせいであろう。


再び軽く溜息をつけば、忍人は千尋へと歩みを進めた。


机上に散乱している竹簡をまとめ、その寝顔に視線を落とす。








確かに、ここ数日忙しい日々が続いていた。

その寝顔にもどこか疲れた様子が伺える。

忍人も視察で宮を離れていたため、
千尋の疲れた様子に気付けなかった。








「ん…」


身じろぐ千尋の髪を、忍人はそっと撫ぜる。


「千尋?」


「ん…おしひと、さん…?」


どこかまだ眠たそうにゆっくりと瞳を開く千尋。


その瞳が忍人の顔を捕らえれば、ふわりと笑みを零した。


が、その瞬間。


千尋は何かに気付いて飛び起きるように、
慌てて上半身を起こした。


「仕事…っ」


忍人の顔を見て仕事中に眠ってしまったことに気付いたようで、
千尋は慌てて机上を見回した。


「今日は休むといい。道臣からもそう言付かっている」


「道臣さんが…?」


驚きに目を丸くさせ、千尋は申し訳なさそうに肩を落とす。


そんな姿に、忍人は思わず俯いてしまった。


「…すまない」


「どうして忍人さんが謝るんですか?」


不思議そうに首を傾げる千尋の頬に、忍人はそっと手を伸ばす。


「…主君の体調に気付けなかった。配下として失格だ」


夫としても。


思わず、眉間に皺を寄せてしまう。








ただでさえ多忙な王の身。

忍人も出来るだけ千尋の負担を減らそうとはしている。

だが、まだ完全な発展を遂げたとはいえないこの国の状況では、
王である千尋の負担は大きなものであった。








「夫としても、配下としても、忍人さんは満点ですよ?」


不意に重ねられたての温もり。


忍人はふと顔を上げる。


「いつだって、私のことも…皆のことも気遣ってくれてる。
そんな人が傍にいてくれて…支えてくれて、幸せだなって思います」


嬉しそうに、どこかはにかんだ様子で笑みを零す千尋。


その笑みが愛おしくて、幸せで。


思わずつられるように、忍人にも笑みが零れる。


「あの…もしこれから時間があったら、一緒に散策に行きませんか?」


「散策…? 俺は構わないが、疲れているんじゃないのか?」


どこか心配げな眼差しを見せる忍人。


千尋はふわりと微笑み、その手を取って立ち上がる。


「だからです。息抜きも必要でしょう?」


それに…と、千尋は言葉を続ける。








忍人さんを充電したいんです。ダメですか?









花のような笑顔で紡がれた言葉。


そんな顔でそんな言葉を言われたら、ダメと言えるはずはない。








微かに顔が熱くなるのを感じながら、
忍人はその手をふわりと包み込み、笑みを零した。





















とある日の夫婦編です。
なんか無理やり終わらせた感じに…げふげふ。

またも友情出演の道臣さん。似非過ぎて自分で凹みます(笑)



















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