巡る季節  めぐるきせつ












「桜の…花…?」


ふいに舞い落ちた花弁を、千尋はそっと手に取る。


「ああ…もうそんな季節か」


青い空を見上げ、呟く忍人。








     本当は…ずっと君のそばにいたかった。








「……っ」


突然脳裏に浮かぶ声。


千尋は、思わず息を呑んだ。


「…? 千尋?」


心配そうな眼差しを送る忍人。


ドクンと、千尋の胸が大きく鼓動を打った。








     俺は、君を愛していた。








胸が、締め付けられるように痛い。


「千尋…っ?」


ふらつく千尋の身体を、忍人が抱き留める。


その温もりを身体に感じ、なぜか千尋の瞳からは涙が零れ落ちた。








懐かしいような…だが切なくなるような、そんな温もり。

どこかで、千尋はこの温もりを知っている。








「…で…」


「千尋…?」


「…どこにも…行かないで…」


今にも消えてしまいそうなか細い声。


忍人の衣を掴む手に、力が込められる。


「置いて…いかないで…」


ふ…と、糸が切れたように千尋は忍人の腕の中に崩れ落ちた。








あなたと同じ景色を見ていたい。

ずっとあなたの傍に居たい。

ただ、それだけだった。



それ以外に、何も望まなかった。








「忍人さん…っ」


千尋は、はっと目を覚ます。


そこには心配そうに自分を見つめる忍人の姿があって、
思わず安堵の息を吐いた。


「大丈夫か?」


「ごめんなさい、心配かけて…」


ゆっくり起き上がり、千尋は微笑んで見せる。


「ずっと、傍に居てくれたんですか…?」


「…あんな顔であんなことを言われたら、離れられるわけがないだろう」


「え…?」


どこか照れたような…困ったようなそんな顔を見せる忍人に、
千尋はきょとんと目を丸くする。


「…何でもない。それよりも、本当に何でもないのか?」


忍人は誤魔化すように咳払いをすると、
寝台に腰掛け、そっと千尋の髪を撫ぜた。


「…夢を、見ただけです」


そっと忍人の手に己の手を重ね、千尋はその瞳を見つめる。


「…あなたが、いなくなってしまう夢」


「俺が…?」


こくりと頷く千尋。


「…居なく、ならないですよね…?」


「千尋…」


「いなくなったり…しませんよね…?」


思わず零れ落ちる言葉。


千尋はその手を握り締める。








この手を離したら、
この温もりが離れて消えてしまうのではないかと…そんな気がして。

この手を離したくなくて。








その瞳から涙が零れ落ちる前に、千尋の身体は暖かい温もりに包まれた。


「夢の話だろう、と…そう思っていたが…」


そっと、その瞳が優しくなる。


「…不思議だな。
この手を離したら、もう君に逢えなくなるのではないかと…」


「忍人、さん…」


「君のこの手を離してはいけないような…そんな気がしたんだ」








優しい声。

この腕の温もり。

大切な人を感じるこの幸福を失いたくない…失えないと、そう思う。








「…忍人さん、私…私は…」








ずっと言いたかった言葉。

ずっと言えなかった言葉。








「あなたが好きです」








たったそれだけの言葉。

ずっとこの言葉を言いたかった。

ずっと…ずっと前から、この想いを忍人に伝えたかった。

そんな気がする。








「忍人さんが…好きです」


この人が好きすぎて。


「好きなんです…」


堰を切ったように、想いが溢れ出る。


腕の中で震える千尋を見て、
その様子を見つめていた忍人もようやく口を開いた。








「…君を、愛している」








耳元で、囁くように紡がれた言の葉。


その言葉がとても嬉しくて。


千尋の瞳からは大粒の涙が零れ落ちた。


「千尋…」


忍人の唇が、千尋の唇に重ねられる。


なぜか懐かしいような…そんな温もり。


「…俺は、君のそばを離れない。ずっと…」








君の隣で、君を守る。








忍人の言葉が、千尋の胸に暖かく降り注ぐ。


「はい…」


ふわりと微笑み、千尋はその胸に顔を埋める。








何度も何度も巡る季節を、この大切な人と過ごせますように。








そんなことを思いながら、
その温もりを全身で感じられるように、千尋はその広い背に腕を回した。

















また切ない感じになってしまった…!(死)
でも、ラストだけは若干甘めにしてみました。
私の書く忍千は悲恋っぽいばかりだったので、すこしは幸せになってる話がいいなぁと。
ようやく告白編みたいな感じになりましたね(笑)
ホント某奥州のひねくれ者と同じにほひが…以下略














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