理由  りゆう












「…ごほ…っ」


忍人と共に肩を並べ歩みを進める千尋。


不意に咳き込む声が聞こえ、千尋は歩みを止めた。


「大丈夫ですか?」


ひょいと、その顔を覗き込む。


「天鳥船に戻りましょうか。顔色…良くないみたいだし…」


「…問題はない。行こう」


「忍人さん…っ」


振り切るようにさくさく歩みを進める忍人を、千尋は必死に呼び止める。


例え大したことはなくても、用心するに越したことはない。


忍人は一人で無理をしてしまうことが多いし、
何よりも…千尋にとって大切な人なのだ。


「天鳥船に戻って、遠夜に薬を調合してもらいましょう。
無理したら身体に…」








「俺はそんなに脆弱ではないっ!」








突然張り上げられた声に、千尋は思わずびくりと身体を震わせた。


そんな千尋の様子を見て我に返ったように、忍人は気まずそうに顔をそらす。


「…すまない…」


「私の方こそ…ごめんなさい…」


「君が、謝ることはない。君の言うことも最もだ」


忍人の言葉に顔を上げる千尋。


忍人にはいつもの『将軍』の顔が戻っていて。


厳しさを含んだ眼差しでこちらを見つめている。


「俺が倒れるようなことになれば、少なからず動揺が広がる。
そうすれば、軍全体に支障をきたすことにもなりかねないからな」


さらりと、いつもの口調で言う忍人。


確かに彼が言うことに間違いはない。


けれど。


「そうじゃ…ないんです」


「…二ノ姫?」


ずいと忍人に近づき、目の前の瞳を見つめる。


「確かに、忍人さんは軍にとってなくはならない人です。
でも、そうじゃなくて…もっと自分を大切にしてもらいたいんです」


「自分を?」


「忍人さんは、大切な仲間だから」


千尋は続ける。


この気持ちを、わかってほしくて。


「足往も、風早も、皆……私だって、忍人さんを心配しているんです」


「二ノ姫…」


「だから…」


言葉を続けようとしたその時。


頭を撫ぜるように、千尋の頭に忍人の手が乗せられた。


「忍人、さん…」


「…そうだな。今日は天鳥船に戻ろう」


見上げれば、どこか優しげな忍人の笑顔があって。


千尋は思わず頬が熱くなるのを感じる。


「行こう、二ノ姫」


「はいっ」


少しだけ。


ほんの少しだけ、忍人との距離が縮まったような気がして。


何だか嬉しくなって、千尋は思わず笑みを零した。

















今回は甘さ皆無にてお届けいたしました(コラ)
なんとなく忍人って、ちょっと心配されたら昔の事を思い出して、怒っちゃいそうな感じ。
仲良くなったら、それはそれで誤魔化し続けそうですよね…体調悪くても、
そんなふとした想像から出来たお話なのでした。














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