お望みのまま  おのぞみのまま












「…! リブ…!」


懐かしいその顔を見て、胸が熱くなった。






平穏を取り戻してからは、
謁見やら執務やらで忙しく、彼に逢いに行く時間がなかった。



絶対に逢いに行くから。



そう約束をしたのに、果たせないまま過ぎてしまった一月という時間。

憂鬱で、寂しくて仕方がなかった。



『常世の国より使者が参りました』



常世の国と聞いて、彼を期待していたわけではなかった。

だが。

目の前に現れた姿に、思わず言葉を失ってしまった。






「…本当に驚いたよ。まさか、リブが直々に来てくれるなんて」


くるりと衣を翻し、千尋は笑みを見せる。


「や、私が早く姫に逢いたかったんですよ」


さらりと紡がれる言葉に、千尋は思わず硬直してしまう。


「すみません。姫じゃなくて陛下でしたね」


硬直した千尋に苦笑を漏らすリブ。






硬直した原因はそこじゃないよ。






とはあえてつっこまず。


頬が熱くなるのを感じながら、もう一度微笑む。


「姫のままでも構わないよ。リブが呼びやすいように呼んで?」






本当は名を呼んでもらいたいけれど。






とは、あえて言葉にはしない。

リブを困らせたくはないから。






「ごめんね? 全然逢いにいけなくて…」


「や、姫が気になさることではありませんよ。私が待ちきれなかっただけです」


千尋は、この微笑みに弱い。


笑顔で、さらりと恥ずかしい言葉が紡がれる。


「で…でも、リブが元気そうで良かった。アシュヴィンも元気?」


なんだか恥ずかしくて、無理やり話題を変える。


「お元気ですよ。相変わらず自由奔放に過ごされてます」


「そっか。…私も早く仕事が落ち着くといいんだけど」


そうしたら、皆に会いにいけるのに。


「…姫…」


心配そうに見つめるリブに、千尋ははっと我に返る。


「ご…ごめんなさい! 
やだな、久しぶりに逢ったのにこんな話になっちゃって…」


思わず苦笑が漏れる。






すごくリブに逢いたくて。

リブに逢えたら嬉しくて、ほっとして。

つい、愚痴のようになってしまった。

リブの顔を見るとすごく安心して、つい弱気なことを言ってしまう。






「構いませんよ。それで、姫の気持ちが少しでも救われるなら」


そっと、リブの大きな手が千尋の手を優しく包み込む。


「リブ…」


「や、でも安心しました。姫が、お変わりなくて」


「一月ぐらいじゃ、そんなに変わらないよ」


「…謁見の間でお逢いした時、少しだけ思ったんですよ。
姫は、『陛下』になられたのだと…」


微笑む千尋をよそに、リブの表情が少しだけ曇る。


「少しお逢いしない間に、あなたは立派な王になっておられました。
だから、寂しかったんです。
あなたが、手の届かない遠い女(ひと)になってしまった気がして…」






饒舌に語るリブ。

いつも余裕たっぷりで、大人で、自分を安心させてくれる。

そんなリブが初めて見せる顔。

驚く反面、それが自分を想ってくれているからこその言葉であることが嬉しくて。






「正直言うと、ずっと気を張ってたんだ。
王になったわけだし、しっかりしなきゃって思ってたから…」


でも。


「リブに逢えたら、安心して…気が抜けちゃった」


リブをまっすぐ見つめ、微笑む。


「リブはね、いつだって私を安心させてくれる。
弱い私を見つけ出して、包んでくれるんだ」


「姫…」


「あのね、今日リブが逢いにきてくれて…本当に嬉しかった。
私も、あなたに逢いたかったから…」


心に思うこと、思っていたことを言葉に紡ぐ。


なんとなく、自分でも言葉が繋がっていない気がする。


きょとんとしたリブの様子に、千尋は思わず赤面した。


「ご…ごめんなさいっ! 何言ってるかよくわかんないねっ」


恥ずかしくなってリブから逃げようとしたその瞬間。






ふわり。






リブの大きく暖かい腕が、千尋の身体を包み込んだ。


「リ…リブ…」


リブの鼓動が聴こえる。


心なしかどこか早いその鼓動は、千尋の胸に熱く染み渡る。


「姫は、相変わらずずるくていらっしゃる」


こんな不意打ちに温もりをくれるリブの方がずるいよ。


心の中でそう呟きながら、その顔を見上げる。


「こんな可愛い事を言われたら、離せなくなりますよ」


嬉しそうに…だがどこか照れくさそうに笑みを浮かべるリブ。


思わず千尋もつられて笑顔になる。


「離さなくていいよ? リブの腕の中、心地好いし…」


そっと、その背に腕を回す。


「…姫には敵いませんね」


リブから苦笑が漏れるのと同時に、顔を上げる千尋。


瞬間、リブの唇が千尋のそれに重ねられた。






優しくて、甘い口付け。

この温もりが久しぶりで、嬉しくて。

離してほしくない…と思ってしまう。






「ん…リブ…?」


口付けの合間。


吐息がかかるほど近い距離で、千尋は言葉を紡ぐ。


「今日は…」


「殿下に滞在許可を頂いてきました」


どのくらいいられるの?


その言葉は、リブの言葉に遮られる。


「ホント?」


一緒にいられる。


そう思うと嬉しくて、顔がにやけてしまう。


「今宵は共に過ごすことが出来そうです」






や、姫が望むなら…ですがね。






千尋の望みがわかっていて、リブはわざとこういう言い方をする。

少しだけ意地悪で。

そのくせ優しくて、暖かい。

こんなやり取りは、不思議と嫌ではない。






「じゃあ、今日は一緒にいてくれる?」


「姫のお望みのままに」






嬉しそうに微笑む千尋。

もう一度、その唇に口付けが落とされた。

















リブ好きだー!!!!
いいですね〜vv開眼した日にゃたまらんですわw
やっぱりリブの中ではアシュが一番だけど、でも千尋を大切に想ってくれてるのもすごいわかるEDですよねvv
妄想沸きますわ〜vv
何よりも、某火雷さんよか名前が短くて、非っ常に書きやすかったです!(笑)














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