好きなキモチ  すきなきもち












「どこだろう?」


辺りをきょろきょろと見回しながら、千尋は宮の中を彷徨っていた。








リブが使者としてやってきた。



そのことを聞いたのは、視察を終えて帰ってきた直後だった。

疲れが残っているだろうから…と謁見は翌日にしてくれたのだが、
早くリブに逢いたくて、千尋は橿原宮の中を行ったりきたりしていた。








「あ! リ…」


ようやく発見したその姿に、リブ…と声をかけようと思ったのだが、
千尋は思わず硬直していた。


やっと発見したリブ。


その隣には采女の姿があった。


お互いに楽しげに笑い合っていて。








リブがいつも笑顔なのはわかっている。

それが男性に対しても女性に対しても変わらないこともわかっている。



けれど。



それでも、やっぱり胸がちくりと痛む。

他の人を見てほしくない…と、子供のようなことを考えてしまう。








千尋の姿に気付いたのであろう。


ふと気付くと、リブがこちらに向かって歩いていた。


「リブ…」


「申し訳ありません。私をお探しだったんですね……陛下?」


千尋はどんな顔をしていたのか。


リブがどこか真剣な顔を向ける。








リブが自分を『陛下』と呼ぶことにも慣れたはずだった。

だが。

大好きなリブの顔がすぐ近くにあるのに、胸が苦しい。








リブの顔をまっすぐ見ることが出来なくて、千尋はそれを誤魔化すように笑みを見せた。


「えっと…元気、だった?」


「はい。陛下もお元気そうで何よりです」


ふわりと微笑むリブ。


その笑顔もいつも通りで。


子供のような面は見せたくなくて、思わず顔をそらしてしまった。


「えっと…」








何を言えばいいのか、わからない。

逢えて嬉しいはずなのに、リブの顔を見ると先ほどの光景が脳裏をよぎる。

そうすると胸が苦しくなって、言葉が出てこないのだ。








「…陛下。今から、お時間を頂けますか?」


不意にリブが微笑み、千尋はこくりと頷いた。








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「…それで、どうなさったんですか?」


人気のない中庭。


ひょいと顔を覗き込まれ、千尋は思わず頬を熱くする。


「どうって…どうもしないよ」


誤魔化すように、ふいと顔をそらす。


何でも見透かしてしまうリブには誤魔化しても無駄だとわかっていても、
それでもついこんな態度を取ってしまう。


「陛下のお顔は、こんなにも曇っておいでですから」


ふわりと笑むリブの顔。


その声はとても優しくて…どこか甘くて。


「…子供っぽいって、笑ったりしない?」


「はい、決して」


リブの顔をじっと見つめ、俯く。


「…あのね、リブは…すごく優しいよ」


思わず小さくなる声。


リブがきょとんとこちらを見つめるのがわかる。


「だから、こんなこと思っちゃいけないの。
それはリブの良い所だってわかってるから…」


もう一度、リブの瞳を見つめる。








「だけど、だめなの。他の人、見てほしくない…」








言葉にして、自分がどれだけ子供なのかがわかってしまう。

いつでも大人なリブと、子供みたいに独占欲を出してしまう自分。

『王』であっても、結局好きな人の前ではただの子供になってしまうのだ。








ふわり。


不意に腕の中に閉じ込められる。


その腕が苦しいほどにいつもよりも力強くて。


「リ…リブ…っ」


「や、すみません。つい…」


悪びれた様子なく笑みを見せて謝罪の言葉を口にするが、
その腕は解ける様子がない。


「苦しいってば…っ」


「姫が…いけないんですよ?」








あんまり可愛らしいことをおっしゃるから。








そんな言葉と同時に、唇が強引に塞がれた。



甘く吸われて、離れたと思えばまた塞がれて。

短いのか、永いのか。

そんな感覚さえわからなくなるほどに、甘い口付け。








「ん…リブ…」


ようやく解放された唇で、言葉を紡ぐ。


「はい?」


「…子供っぽいって、思ってない…?」


リブの腕の中で温もりを感じながら、問いかける。


「思ってませんよ。…姫が、私を想ってくださっている証ですから」


ふわりと笑みながら、今度は頬に軽く口付けが落とされる。








『姫』に戻るときは、恋人としての時間を過ごす時。

本当は名前を呼んで欲しいけれど、
こうして二人で過ごすだけで幸せで、今はそれだけで良い。








「…では、そろそろ戻りましょうか?」


ふわりと微笑み、やんわりと腕が解ける。


「そうね。…久しぶりに、リブのお茶が飲みたいな」


「とっておきのお茶をお入れしますよ」








貴女の為だけに       

















千尋が嫉妬しちゃいます編でした!(笑)
千尋はこういうことで一喜一憂してそうです。
そんなところが千尋の可愛いとこなので、リブがどんどん甘やかしたくなっちゃうわけですな。
背伸びしようと頑張るほど子供になっちゃって悩む千尋と、そんな千尋が可愛くて仕方ないリブ。
そんな二人が大好きですw














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