焔の光  ほむらのひかり        *サティED後設定*












争いのない、穏やかな世界。

それを、ようやく手に入れた。



だが、そこには彼がいない。



生きていてくれさえすれば、それでいい。

そうは思っていても、彼に逢いたかった。

彼の望んだ世界で、再び逢いたいと願った。






国が見渡せるこの場所。

ここで待っていれば、いつかは彼に逢えるのかもしれない。

そう思って、千尋は度々訪れていた。






「…! ナーサ、ティヤ…」


赤い髪に綺麗なそのシルエットは、見間違えるはずもない。


千尋は、思わずその名を口に出していた。


驚いたように…だが、どこか懐かしそうに、ゆっくりと瞳がこちらに向けられる。


「…龍の姫…」


久しぶりに聴く声は、昔よりもどこか優しくて。


思わず涙が出そうになる。


「…やっぱり、生きてたんだね…」


どうにか絞り出す声が、震えてしまう。






即位式の日、この三輪山で出会った女性に聴いた常世の花の話。

いつだったか土蜘蛛から聴いた、エイカの話。



それらを照らし合わせれば、
ナーサティヤは生きていてくれていると推測できた。

だが、それでも確信は持てなくて。

どうしても逢いたくて。

何度も、この三輪山に来てしまった。






「…無様にも…な」


どこか自嘲の含んだ言葉。


「…無様だとしても、あなたが生きていてくれて…私は嬉しいよ」


必死に、言葉を紡ぐ。


「私は、あなたに生きていて欲しかったから」


今にも泣き出してしまいそうになりながらも、
千尋はまっすぐと彼の瞳を見据える。


彼の瞳が揺らいだように見えたが、
それはほんの一瞬ですぐにその瞳をそらされてしまった。






しばしの沈黙。






傍を離れたくなくて、その場に佇む。


ナーサティヤもその場を動こうとはしなかった。


「……そろそろ戻ってはどうだ。
王にはこのような場所に長居している時間はないだろう」


「いいの。一日くらいゆっくりしても許されるよ」


「…そうか」


一瞬の沈黙の後、ナーサティヤが千尋に背を向ける。






行ってしまう。






千尋はそう思った。


その大きな背中は孤独で、切なくて。


千尋は、思わずその腕にしがみついていた。


「何を…」


「…行くの?」


千尋の問いに、彼は答えない。


「また、行ってしまうの?」


必死に彼を繋ぎ止めるように、震えながらも言葉を紡ぐ。


「行かないで…傍にいて…」


思わず涙が零れ落ちる。


「なぜ…」


「…あなたと戦ったこと…後悔なんてしてないよ。
あれが、私の選んだ道だったから…」


でも     


ぎゅっと、腕に力を込める。


「そこにあなたがいないと、意味がない…」


ぽろぽろと、とめどなく涙が零れ落ちる。






生きていてくれさえすればそれでいい。

本当に、そう思っていた。

だが彼に逢えて、嬉しくて。

また離れるのが辛くて、思わずそう言っていた。






沈黙を守り続けるナーサティヤ。


きっと、呆れている。


中つ国の王になったのが、こんな子供で。


「…ごめんなさい。今の…忘れて?」


涙を拭い、千尋は無理やり笑顔を作る。


「私には、あなたを縛る権利はないもの。
でも…忘れないで?」


そっと、その腕を離す。


「あなたを大切に想う人がいるってこと。
あなたが生きていてくれてよかったって、そう思っている人がたくさんいるから」


瞳が、向けられる。


どんな瞳で見つめているのか。


自分のこの想いを拒否されるのが怖くて、千尋は俯いた。


「だから…生きてて欲しい」






生きていれば、きっといつかまた逢えるから。






言葉には出さず、心の中で呟く。


「…私、もう行くね。引き止めちゃってごめんなさい」


そう言って、背を向けた瞬間。


腕を掴まれ、力強く抱き寄せられた。


何が起きたのかわからず、千尋は目をぱちぱちさせる。


「あ、あの…」


「…私はお前の益にはならぬ存在。
それでも…共にあることを望むのか?」


全身に感じる温もり。


暖かくて…嬉しくて、再び涙が滲む。


「利益とか…そういうのじゃないよ。ただ、好きな人と一緒にいたいだけ…」


「好き…か。そういう感情は、私にはわからぬ」


だが…と、ナーサティヤは言葉を続けた。


「…炎の中でのお前の泣き顔が、ずっと離れなかった」


「ナーサティヤ…」


「ここに来たのも、どこかで…お前に逢えることを期待していたのやも知れぬ」


見上げるナーサティヤの顔。


どこか穏やかな顔をしていて、それが幸せすぎて…涙が出そうになる。






炎の中、手を伸ばしても届かなかった人。

それがすぐ傍にいて。






ふわりと、暖かい手が頬に触れる。


その手に千尋も己の手を重ねる。


「傍に…いてくれる?」


嬉しくて泣き出してしまいそうで、震える声。






返事の代わりに紡がれたのは、

優しくて甘い口付けだった。

















初、サティ創作v サティ創作はアレですな。
何がアレって、名前が長い(爆笑)
ほら、アシュと違って千尋はサティって呼べないから、フルで呼ぶわけです。
長くて長くて…打つのがめんどい…。。。

そんなサティ創作、意外と長くなりました。
サティED後の設定ですね。
あの後、千尋とサティは絶対出逢えてる!っていう妄想がこんな感じになりました。














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