甘い香り
  あまいかおり












「帯刀さん! 遅くなってごめんなさい…っ」


ぱたぱたと軽い足音を立て、彼女の姿が近くなる。


同時に、帯刀はこの先に起こるであろうことを想定し、腕を軽く広げる。


こういう時、彼女の身に起こる事を、帯刀は嫌というほど経験してきた。


「あ……っ」


何もないところで躓いたゆきの身体が、とさりと帯刀の胸へと倒れこむ。


「ご…ごめんなさい」


「…いつも言ってるでしょ。君はもう少し落ち着きを持ちなさい」


諭すように覗き込むと、ゆきはしょげたように少し肩を落とした。


その可愛らしい姿に叱る気も失せ、思わず溜息がこぼれる。


「全く…私が構えてなかったらどうするつもり? 君、地面に激突してるよ」


「帯刀さんなら、きっと私を受け止めてくれるって信じてますから」


ふわりと向けられる、花のような可愛らしい笑顔。


不意打ちのそんな顔にも慣れたはずなのだが、やはり胸が熱くなる。








こちらが振り回しているつもりで、いつの間にか彼女に振り回されている。

けれど、不思議と悪く気はしない。

むしろ、心地よいくらいだ。

彼女の全てが、心地よい。








「…君ね、そんな可愛いことを言ってると…離してあげないよ?」


華奢なその背に腕を回して抱き寄せると、その頬にはほんのりと紅が差す。


「えっと…あの、人が…見てますし…」


「…誰も見てなかったらいいの?」


彼女がどんな反応を見せるかわかっていて、
わざと吐息がかかるように耳元で囁く。


思ったとおり、ゆきはびくりと身体を震わせ、耳まで真っ赤に染める。


その姿もまた愛おしくて、帯刀はくすりと笑みを零した。


「心配しなくても、他の者に君の可愛い姿なんて見せたりしないから安心しなさい」


「た、帯刀さん…っ」


彼女が腕の中で身じろいだ瞬間、ふわりと甘い香りが鼻をくすぐった。


彼女の香りも甘いのだけれど、それとは違う香り。


「これは…菓子?」


「あ!」


帯刀が呟くと、
ゆきは思い出したように持っていた紙袋を見せるように持ち上げた。


「これ…帯刀さんが食べたいって言ってたクッキーを焼いてきたんです」


「くっきー……ああ、あの焼き菓子のことだね。君が…焼いたの?」


「はい。その…お口に合うかわかりませんけど」


はにかんだ笑みを見せるゆき。








ゆきくんが作ったものなら、口に合わないはずがないでしょ。








とはあえて言わず、帯刀はふわりと微笑んだ。


「じゃあ、早く行こうか。私と君の時間を邪魔されない場所に…ね」


彼女と甘い香りに包まれながら、帯刀はその手を取って歩き始めた。

















で、おうちまでお持ち帰りです〜!(笑)
というわけで、お久しぶりな創作で初遙か5!
とにかく白虎萌え!(笑)
小松さんはかなりやばいですね!ツンツンしてるくせに激甘!
めっちゃ好きだ〜!















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