君と帰る場所  きみとかえるばしょ












「アンジェリーク? ベルナールだけど…」


ノックし、ドアの向こうにいる少女に話しかける。








今日はベルナールにとって久しぶりの休日。

この丸一日は、彼女のために費やされるはずだったのだが。

そこに現れたのは、伝言を言付かったレイン少年だった。



『今日は行けなくなってしまいました。本当にごめんなさい』



というアンジェリークからの伝言。

レイン少年はそれしか聞いていなかったらしく、理由は判らずじまい。

その姿は慌てた様子で、とても落ち込んでいたようだった…という。

アンジェリークに何があったのか…それが気になり、陽だまり邸までやってきてしまった。








「今日は…本当にごめんなさい…」


ドア越しに聴こえる、か細い声。


その声は今にも泣きそうなほどに震えている。


「アンジェ…?」


「でも、今日は……きゃっ」


「…! アンジェ!?」



悲鳴と共に聴こえてきたのは、何かが崩れるような音。


彼女に何かあったのかと思うといてもたってもいられなくて、
ベルナールは部屋に駆け込んだ。


「アンジェ…!?」






ドアを開け、ベルナールが見たものは。






「アンジェ、これは…」


まるで何かを探すように開けられたままの引き出しに、
その傍に座り込んだ、泣き出してしまうそうなアンジェリーク。


「何かあったのか!?」


「…ごめんなさい…」


ベルナールが傍によると、
その姿を見上げたアンジェリークは瞳にいっぱいの涙を浮かべた。


「探しても…見つからないんです…」


「見つからないって…何がだい?」


そっと、その頭を撫ぜる。


「…指輪、です。ベルナールさんに頂いた…」






指輪。

いつだったかアンジェリークと二人で商都ファリアンに出かけたとき、
彼女へプレゼントしたピンクトルマリンの指輪だ。

彼女の細く美しい指に似合う、可愛らしい指輪だった。






「きっと、どこかで落としてしまったんだわ…」


ごめんなさい…と、大きな瞳からぽろぽろ零れ落ちる涙。


その涙に少し胸が痛むが、その姿がとても愛おしくて。


ベルナールはふわりと微笑む。


「謝ることはないよ、アンジェ」


「でも…初めてベルナールさんに頂いたものなんです! それなのに私…っ」


その涙は零れることなく、ぼろぼろ零れ続ける。


それは、自分がプレゼントしたあの指輪を
彼女がどんなに大切にしていたかを語っているようで。


胸が暖かくなる。


「…ありがとう、アンジェ。君は本当に優しい子だね」


「ベルナールさん…」


「でも、もう謝らなくていいんだよ?」


そっとその涙を指で拭い、その目元に口付けを落とす。


「…その指輪をプレゼントしたときの言葉、覚えてるかな?」


きょとんとこちらを見つめるアンジェリーク。


その姿が可愛らしくて、笑みが零れる。






愛おしい少女。

あんなに幼かった少女は、もうこんなに立派なレディになった。

この腕の中から飛び立ってしまう前に閉じ込めてしまおうと…
もう何度そう思ったことだろうか。






「君と、一緒の家に帰りたいって…」


「あ…」


思い出したように、アンジェリークの頬が赤く染まる。


その姿を微笑ましく見つめながら、ベルナールは胸元から小さな箱を取り出した。


「…どうかな? もし君が僕を受け入れてくれるなら…」


空いた手でアンジェリークの左手を取り、その薬指に口付けを落とす。






このリングを、この指にはめさせてさせてほしいんだ。






開かれた小箱。


その中には、ピンクのダイヤが埋め込まれた指輪が入っている。


「あの指輪をプレゼントしたときより…今よりも、
もっともっと…君の事を幸せにしたいんだ」


にっこりとベルナールは微笑み、その翠色の瞳を見つめる。


答えを求めるように。






ずっと、この少女といっしょにいたい。

もう手の届かない場所へは行ってほしくない。






「はめて、頂けますか?」


ふわりと暖かい笑みを浮かべるアンジェのその指に、
ベルナールはそっと指輪をはめる。


ぴったりとその指輪がはまると、ベルナールはその身体を抱き締めた。






嬉しくて、愛おしくて。

この温もりを、ずっと感じられるように。

その耳元でそっと囁く。






僕と、一緒の家に帰ろう。



















ピンクトルマリンとピンクダイヤ…ネオフェス9でのメッセより(笑)
あまりにも萌えだったので書いてしまいましたw
どんだけ甘いの!!ってくらい甘くしたかったんですが…どうも私の技術では平川兄さんの甘い声には及ばず…(笑)
とりあえず、ベル兄に「一緒の家に帰ろう」っても一回言わせたかっただけですv(爆笑)















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