Promise












「アンジェ…?」


暗闇の中、一人佇む少女を見つけ、その傍へと向かう。






彼女は、明日旅立つ。

その背はとても小さくて、華奢で。

この小さな身体に、たくさんの想いや願いを抱えている。



皆が、運命をこの少女に託している。



それはとても重圧で、彼女にとって辛いこともあったはずだろう。

だが、彼女は弱音など吐かず…いつも笑顔で、自分の運命に立ち向かっていた。

彼女が成長するそんな姿が、喜ばしくもあり…また切なくも感じていた。






「…アンジェ?」


ふわり…と、背後からその華奢な身体を抱き締める。


「こんな時間に、こんな所で…どうしたんだい?」


「ベルナール、さん…」


ようやく聴こえたその愛らしい声は、
今にも泣き出してしまいそうで…胸が締め付けられるように苦しくなる。


「皆、君の事を心配しているよ」


「…ごめんなさい」


アンジェリークの震える手が、僕の手にそっと重ねられた。


その手は微かに震えていて、彼女の気持ちがじんわりと伝わってくる。


「…怖い?」


びくんと、その身体が震えた。


「……私は、二クスさんを救いたい。
タナトスの脅威から…この世界を守りたいんです。でも…」


ゆるりとその腕を解き、振り返る。


「私に、本当にその力があるのかなって…」


「アンジェ…」


「私は、皆さんの想いに応えられるのでしょうか?
大切なものを、守ることが出来るのでしょうか…?」


月明かりの下でもはっきりと見える潤んだ瞳。






女王など、やめてしまえばいい。

女王の卵である前に、君は女の子なんだ。



何度も、そう言いかけた。

そう言ってしまえたら、どんなに楽だったのだろうか。

だが、この世界を救えるのは…この少女しかいない。

女王の卵として選ばれた、アンジェリークしか。






「僕には見える。君の背の大きな翼が…」


ふわりと微笑む。


「君が思う通りに、その翼で羽ばたいていけばいい。
僕は、君ならできると信じている」






汚れのない、真っ白な翼。

きっと、この少女なら強く…美しく羽ばたいていけるだろう。






「大丈夫、君は一人じゃない。
頼もしい仲間がいるだろう? もちろん、僕も…」


不安そうなそんな瞳でこちらを見つめるアンジェリークの身体を、
全てを包み込むように、もう一度この腕の中に閉じ込める。


「見守ることしか出来ないけれど、いつだって君の事を想っているよ。
だから…」






    行っておいで。






そっと、優しくその耳元で呟く。


「ベルナールさん…」


「…でも、忘れないで? 君の帰る場所は、ここにある」






もしかしたら、このまま羽ばたいていってしまうかもしれない。

もしかしたら、飛び立って遠いところへ行ってしまうかもしれない。






そんな不安を見せないように、もう一度微笑んで見せた。


「ありがとう…ございます」


ふわり   とようやく見えた彼女の優しい笑顔に、心が安らぐ。










もう一度、この笑顔に出逢えるように。

もう一度、この温もりを感じられるように。




そんな願いをかけながら、

僕はその柔らかな唇にそっと口付けた。




















お久しぶりなネオアン創作!
ベル兄のキャラソン「Farewell Smile」をBGMに読んで頂ければと思いますv
ちょっと切なめに、でもビターすぎない甘さを感じて頂ければ幸いv















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