01.痕(しるし)     知盛×望美 / 少しシリアス、少し甘め












「知盛…」


風呂上がりの望美は、バスタオルを巻いた姿のままで鏡を見ながら肩に触れる。






痛々しい傷痕。






異世界の壇ノ浦で、知盛と剣を交えた時につけられたものだ。

今の知盛とは違う、別の時空の知盛。

あの時…知盛が海に身を投げた時、望美には想い出とこの傷しか残らなかった。

あれからどれほどの時間が経ったのか、もうこの傷も痛まない。

幾度となく時空を越え、その度に知盛を愛してきた。






そして、やっと手に入れた幸福。






今、同じ時空(とき)を生きる知盛を愛している。

だが、今まで巡り逢ってきた知盛を愛していたのもまた事実だった。

この傷は…今までの知盛との想い出を思い出させる。






「…望美」






不意に背後から声をかけられ、望美は我に帰った。


鏡には、気だるそうにドアに寄りかかる知盛が映っている。


「何を…している?」


長い間放置されていた知盛は、不機嫌そうに望美の身体を抱き締めた。


知盛の逞しい腕の中にすっぽりと包まれた望美の身体は、
すっかり冷え切っている。


「冷たい…な」


「ちょっと考え事してたの」


ぺろりと舌を出して笑みを見せた望美は、そっと知盛の腕に己の手を回す。


知盛の腕の中は、とても暖かくて心地好い。


「この…傷のことか?」


知盛は、望美の肩に残る傷痕にそっと口付けを落とした。


ぴくりと望美の肩が震える。


「そういう…わけじゃないけど…」


ほんのりと頬を紅潮させて知盛の顔を覗き込もうとした望美は、
強引に口唇を奪われた。






何度も離れては重なる口唇。






ようやく解放された頃には、
冷え切っていた望美の身体はほんのりと桜色に染まり熱を帯びていた。


自力で立てず、望美は息を荒げながら知盛の胸に寄りかかる。


「何なのよ…」


瞳を潤ませながら、望美は恨めしそうに知盛の顔を見上げる。


「…妬ける…な」


聞こえるか聞こえないかの声で呟いた知盛に、
望美は「何か言った?」と首を傾げる。


「いや…」


「…知盛?」


知盛の方に向き直った望美は、不安げにその瞳を見つめる。






嫉妬。

くだらないと思っていた感情。

まさかこの俺が。






知盛はいつものように「く…っ」と口の端を上げた。


「お前を傷つけていいのは、俺だけだ…」


望美の耳朶に甘く口付けると、知盛は白い首筋をきつく吸い上げて紅い花弁を落とした。


「と…知盛っ」


顔を真っ赤に染めながら、望美は残された紅い痕を押さえる。


そんな望美にはお構い無しに、知盛は消えかけた痕の上やまだ白い肌にいくつも花弁を散らしていく。


「ちょ…っ」


身体を押し離そうとする望美の腰に手を回すと、知盛はいつものように意地悪く笑んだ。


「俺以外、何も考えられなくしてやるよ…」


知盛の行動を読んでしまった望美は、口の端を軽く引きつらせる。


「明日は学校が…っ」


知盛は制止も聞かず、望美の身体を軽々と抱き上げる。






甘い夜が更けていく         














次の日、大寝坊して学校を遅刻した望美ちゃんがいたとか(笑)
なんかシリアスなので、後半を無理やり甘くしてみました。





















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