06.斜陽     泰衡×望美 / 少しシリアス












眩しいくらいのオレンジ色の陽光が、望美を照らす。






今日も戦であった。


剣を振るい、人を斬り…一つ一つとまた命が消えていく。



それは戦なのだから、当然のこと。



今まで何度も経験してきた事だ。

だが、人の死を目の当たりにするのは辛い。

それが知人ならば、尚更。






      まだ14歳の少年だった。






武士の血を引いていて、泰衡をとても尊敬していた。

勇敢で、まっすぐな少年。

それは、ほんの一瞬の隙だった。

ほんの一瞬の隙に、彼の身体は貫かれた。

戦では、ちょっとしたことが命取りになる。

それは剣を持つ者として当然のこと。



だが、わかってはいても…辛い。






望美の瞳から、自然と涙が溢れる。


「神子殿…?」


不意に背後から呼ばれ、望美はハッと返った。


涙を拭うとゆっくりと振り返る。


「泰衡さん…」


「こんな所で何をしているんだ? 八葉たちが貴女を探していたぞ」


泰衡は小さくため息をつく。


じっと見つめてくる泰衡に泣いていた事を知られたくなくて、
望美は無理やり笑顔を作る。


「夕陽を…見てたんです。きれいだなって…」


「…泣いていたのか」


鋭い泰衡の言葉に、思わず背を向けた望美の瞳から涙が零れ落ちる。


「…っ…」


「…戦が辛いか?」


「そうじゃないんです。ただ…」


言葉に詰まり望美は俯いた。


 その瞳からは、大粒の涙が止め処もなく溢れ出した。


泰衡は何も言わず、望美の傍に佇んでいる。






しばしの沈黙。






不意に、望美は口を開く。


「…私を慕ってくれた男の子がいたんです。
泰衡さんのこと、すごく憧れてて…いつか泰衡さんみたいになりたいって…」


「‥‥‥」


「でも、今日の戦で…」


泰衡は何も言わず、静かに望美の言葉を受け止める。


「何も…出来なかった…。自分のことで精一杯で…私…っ」


そう言って肩を震わせる望美の身体を、泰衡は後ろからその腕にそっと抱き締めた。






力強く…だが、どこか優しく。






泰衡がどんな顔でこうしているのかはわからない。

だが、これ以上己を責めるな…と、そう言っているようで。

望美は、回された泰衡の腕にそっと顔を埋めた。






この温もりが、心をも暖めていく。






「…止まらなくなっちゃった」


「俺の袖で拭かないで頂きたいんだが…」


「…わかってます」


少し頬を膨らませながら…だが少し嬉しそうに、望美は泰衡の顔を見上げる。


泰衡に抱き締められただけで涙も止まり、
望美の心は随分と落ち着きを取り戻していた。






その温もりが…泰衡の存在が、望美に力を与えてくれる。






「…ひどい顔だな」


そっと腕を解き、泰衡は口の端を上げて笑む。


「九郎たちが見たら驚くぞ」


「泰衡さんに泣かされたって言っておきます」


望美は悪戯気に笑むと、泰衡の腕にしがみつく。


「皆が探してるんですよね? 行きましょう」


「探しているのは神子殿だけだが…」


「いいから、ね?」


強引に歩き出す望美に泰衡は小さく溜息をつくと、
僅かに笑みを浮かべて共に歩き出した。






望美に歩幅を合わせ、ゆっくりと進む。

オレンジ色の陽光が、二人を包み込んだ。




















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