09.逢瀬 将臣×望美 / 切ない
静かな夜。
月の光が二人を照らす。
「…もう行かなきゃ」
悲しげに…だがその感情を見せまいと微笑み、望美は将臣の顔を見上げた。
「そうだな。…行くか」
「…うん」
望美は俯きながら、繋がれたその手を静かに離す。
顔を上げたら泣いてしまいそうで。
「じゃあ…な」
「…うん」
苦しそうに…だが笑顔を作って、将臣は望美の頭を撫でた。
その温もり…優しさは、昔と全く変わらない。
変わってしまったのは、2人の立場。
逃げ出す事は許されない。
「じゃあ…ね」
必死に笑顔を作り、望美は将臣に背を向け歩き出す。
遠ざかる愛しさが切なくて、望美の瞳からぽろぽろと涙が零れ落ちる。
すると、遠ざかっていたはずの温もりが、再び望美の身体を包み込んだ。
「将臣く…っ」
「…そんな顔すんなよ」
将臣の腕に力が入る。
「ごめ…っ」
この温もりが嬉しくて…切なくて、言葉にならない。
今だけは と。
望美は将臣の腕にそっと触れる。
当たり前のようにあった温もりが、今は遠くて…切ない。
せめてこの月が照らしている間は、この温もりを感じていたい。
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