10.白雪     泰衡×望美 / 少し切なめ












「神子殿?」


縁側に腰掛ける少女の姿を見つけ、泰衡は声をかける。


「こんな所で…風邪を召されるぞ」


「雪を見てたんです。泰衡さんも一緒に見ませんか?」


望美はふわりと泰衡に微笑みかけた。


寒いのだろう、鼻の頭も少し赤いようだ。


「雪のどこが楽しいのか…」


眉間にシワを寄せながらも、泰衡は望美の隣に腰掛けた。






辺り一面に積もった雪。






冬の平泉では当たり前の景色だ。


「神子殿の世界では雪は降らないのか?」


「降りますよ。でも、私が住んでた所はこんなに積もらなかったから…」


あ、と声をあげ、望美は地面に降りてしゃがみこんだ。


白い息を吐きながら、金が望美に駆け寄る。


「金…?」


「毎日来るんですよ。こんなに寒いのに元気だなぁ」


微笑みながら望美が撫でてやると、金は嬉しそうに尾を振った。


「金って、やっぱり泰衡さんが好きなんですね」


不意に望美は泰衡に微笑みかける。


「今日は泰衡さんがいるから、いつも以上に嬉しそう」






泰衡に向けられるその笑顔が眩しい。






この真っ白な雪のように、望美の心も真っ白で清らかなのだろう。


「そうも見えないが…」


「そうですよ!」


きっぱり言い切ると、望美は再び泰衡の隣に腰掛けた。


「私も、犬飼いたかったなぁ…」


雪の上を元気に駆け回る金を見つめ、望美はぽそりと呟く。


「元の世界でも飼ったことないんですよね…」






元の世界。






いつか戦が終われば神子は帰るのだ…と、泰衡はふと思う。






この平泉が守られる事。

それは、望美がいなくなる事を意味している。

その事をどこかで寂しいと感じる自分がいた。






それならば、ずっとここにいればいい      と。






「泰衡さん…?」


「いや…」


ふっと瞳を逸らし、寒さで真っ赤になった望美の手にそっと触れた。


「…随分と冷えているな」


泰衡はその冷たい望美の手を、そっと握り締める。


望美は一瞬驚いた顔をしたが、何も言わず泰衡の温もりを感じる。






止まずに降り続ける雪。

雪に、泰衡は静かに願いを込めた。































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