20.希望の果て
     泰衡×望美 / 少し甘々













「ホント賢いね〜、金」


足元に転がった毬を拾った望美は縁側に腰掛け、『おすわり』をして尻尾を振っている金の頭を撫でる。


「平和だなぁ…」






泰衡と共に鎌倉侵攻を終えた望美は、
元の世界へ帰るという譲と別れてこの世界に残ることにした。

今まで通り高館で生活をしている望美だが、
暇を持て余しているので毎日のように伽羅御所に通い、金の相手をしている。

金に会いに…というのは只の口実で、本当に逢いたいのは主の泰衡であった。

鎌倉の軍勢が平泉に攻め入ってきた時、
望美が選んだのは『泰衡と共に歩む道』であった。

大切なものを守ろうとする泰衡の強さに、望美は惹かれたのかもしれない。

泰衡も拒むことはせず、共に行く事を決めた望美を受け入れた。






この平泉に戻ってきてから一ヶ月、望美は心に迷いを抱え始めていた。



孤独を抱えた泰衡。



そんな彼を一人にしたくなくてこの世界に残ったはずだった。

鎌倉侵攻を決めたあの日から、
少しずつではあるが心を開くようになった。

だが、泰衡にとって自分は必要なのだろうか     と、
疑問が生まれていた。



泰衡にとって、自分は何なのだろうか     と。






「神子殿、ここだったのか」


不意に泰衡に声をかけられ、望美は我に返る。


「泰衡さん…?」


「…行くぞ」


一言呟くと、泰衡は強引に望美の手を引き御所の門へと向かって歩き出した。


「ここは…」






平泉を見渡せる高台。






望美が馬に乗って連れられた場所は、大社であった。


鎌倉の軍勢に対抗するために建設された場所。


侵攻から戻ってきてからはここに来ることもなかったので、随分懐かしく感じる。


「何か…あったんですか?」


望美は、隣で無言のまま景色を見下ろす泰衡の顔を見つめる。






己が守った平泉を、
愛おしそうに…けれどもどこか寂しそうに見つめる泰衡の瞳。






やはり、泰衡の心はまだ孤独のままなのだろうか。


望美はかける言葉を見つけることが出来ず、平泉の美しい町並みを眺める。






長い沈黙。






辺りが斜陽に変わった頃であった。


泰衡が静かに口を開いた。


「ここから平泉を眺められるのも…今日が最後だ」


「え…?」


「…明日から解体が始まる」


鎌倉との戦が終わった今、この高台の役目は終わったのだ…と、泰衡は語る。


「そっか…」


寂しげに望美は俯いた。






今日が最後。






二人でこうして出かけるのも最後だ…と言われているきがして、胸がずきんと痛んだ。


「…元の世界には帰らないのか?」


静かに、泰衡が問うた。






生まれ育った故郷が恋しくはないのか、と。






思いも寄らなかった質問に望美は一瞬目を丸くするが、静かに首を横に振った。


「恋しくないって言ったら、嘘になる。でも…」


望美の瞳が、泰衡の瞳を捉える。






そこにはあなたがいないから。






精一杯の想いを込めた言葉。


どこか寂しさを含んだ瞳で、望美は微笑む。


泰衡は動じることなく、己を捉えるその新緑色の瞳を見つめる。


「…俺は平泉(ここ)を守れるのは自分だけだと思っていた。それが俺の役目だと…」


泰衡は静かに語った。






なんと言われようとも…どんな手を使おうとも、この手で大切なものを守り抜く     と。






望美は、初めて泰衡が心を見せてくれたように感じた。

それが…本当に嬉しい。






「貴女には随分と助けられたな。礼を言おう」


今まで見たことのないような穏やかな顔で、泰衡は笑顔を見せる。


「俺の望みは果たした。次は…貴女の番だ」


「え…?」


「貴女の望みは果たされていない。そうだろう?」


泰衡は望美の瞳を見据える。


「貴女は何を望む?」


望美の答えがわかっているのか、泰衡は何かを含んだ笑みを見せる。


「あなたとの未来が欲しい…」






ここではない世界で、新しい道を作りたい     と。






「…いいだろう」


「え……」

「神子殿が本当にそれをご所望ならばな」


「本当…に…?」


その返答が嬉しいはずなのだがどこか信じられず、
望美は目を丸くして泰衡の瞳を見つめる。


そんな望美の身体を、泰衡は笑みを浮かべたまま抱き寄せた。


「…退屈はさせないでもらいたいな」


耳元でそっと囁く。


こくりと頷いた望美は、その背中にそっと腕を回した。









大切な者と共に歩む未来へと続く道;。

希望の果てに見つけ出した、新たな未来。













すみません。泰衡さん、現代に行っちゃいます(笑)
いや、やっすーは絶対に平泉を離れないと思いますが、でも書きたかったんです!(自己満足)



















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