CRESCENDO     吉羅×日野 / 切ない













「吉羅、さん…?」


驚いた瞳でこちらを見つめる香穂子。


それはすぐに笑顔へと変わっていった。


「まさか見送りに来てくださるなんて思いませんでした」


遠い空の下へと向かう少女を、暁彦はただ見つめる。








己の道を切り開き、羽化する様に飛び立つ少女。

流れ行く空のように、人の想いは儚いもの。

このまま羽ばたいていけば、もう戻って来ないのかもしれない。

どこかで、この少女が飛び立つのを寂しく思う自分がいた。



だが。



それでも、この少女が羽ばたくのを止めることはできなかった。








「…吉羅さん」


気付けば、彼女はどこか真剣な眼差しでこちらを見つめていた。


その瞳は吸い込まれそうなほどに強さを秘めている。


「私、一人前のヴァイオリニストになって帰ってきます。だから…」


一瞬躊躇うように俯けば、もう一度こちらを見つめる。








「その時は、また助手席に乗せてくださいますか?
あなたの、隣に…」








思いもしなかった言葉。

驚きではあるが、彼女の言葉がどこか嬉しくて。








「…私も気が長い方ではないのでね」


暁彦は軽く口角をあげ、その瞳を見つめる。


「まあ、精々頑張りたまえ」


暁彦の言葉をどう受け取ったのか、
香穂子はにっこりと微笑んで大きく頷いて見せた。








待っている、とは言わない。

早く戻って来て欲しい、とは言わない。



だが、願わくば。



彼女の行く末に幸あるように。

迷い、立ち止まったとしても…前に進めるように。








暁彦は、羽ばたいていくその姿をただ見つめていた。


















理事編です!
理事って、「待ってる」とかそういう言葉は言わない気がします。
やっぱり素直じゃないからどっかひねくれ気味になりそう(笑)
でも、いざって時はきっと力になってくれるんですね!
ザ・大人です。














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