空いた時間を過ごす相手
*この創作は『吉羅暁彦生誕祝い企画』にて展示していた創作です*
「とっても美味しかったです。ご馳走様でした」
「君の口に合ったのなら何よりだ」
満足そうに微笑みながら少し後ろを歩く香穂子に、暁彦の口元が微かに緩んだ。
そのふとした瞬間が嬉しくて、思わず香穂子ははにかむ。
コンマスの務めを終えてから、週末にこうして二人で出かける機会が増えた。
「時間が空いた」と呼び出されては高級レストランに食事へ行ったり、
暁彦の行きつけであるバーへ行ったり。
時には、演奏会へ行ったり。
こうして共に歩いているときはさりげなく歩幅を合わせてくれるし、
以前よりも優しい表情をするようになった。
暁彦曰く一種の『社会勉強』らしいが、
端から見れば『デート』と言えなくもないような気がする。
といっても、『一人の女性として扱う条件』にはまだ程遠い香穂子は、
まだ暁彦の瞳には映らないのかもしれない。
そう思うとなんだか切なくて、胸が苦しくなる。
「わ…っ?」
そんなことを考えながら歩いていた香穂子は、
段差があることに気付かず、足を踏み外してしまった。
ふわりと浮きかけたその身体は、暖かい腕の中に抱き留められる。
「…全く、君は…」
耳元に優しい吐息がかかり、香穂子はふわりと暁彦の香りに包まれた。
それはとても優しくて…心地好い。
「人をはらはらさせるのが得意らしいな。…本当に、見ていて飽きないよ」
「え…?」
暁彦の言葉に香穂子は顔を上げる。
すると、すぐ目の前にはどこか優しげな暁彦の顔があって、
はっと我に帰る。
「ご…ごめんなさい…っ」
香穂子は暁彦から離れようとその胸を軽く押すが、
なぜか解放されず、その身体はすっぽりと暁彦の腕の中に納まった。
「あ、あの…っ」
一気に顔が熱くなるのを感じる。
暁彦に聞こえてしまうのではないかと言うほどに、
香穂子の心臓は激しく鼓動を打っていた。
目の前の暁彦はなんだか涼しい顔をしていて、
一人で動揺している自分がバカみたいで、余計恥ずかしくなってしまう。
「き…吉羅さ…」
ふわり、と。
突然、柔らかく暖かいものが額にそっと触れた。
「〜〜〜っ!?」
額に口付けが落とされたことに驚き、香穂子は口をパクパクさせる。
その様子をどこか楽しげに眺める暁彦はそっと腕を離し、
意地の悪そうに口端を挙げた。
「私も気の長い方ではないのでね、あまり待てないのだよ」
「な、な…っ」
「君には、早く一人前の女性になってもらわなくては困る」
驚きでまだ言葉を発せない香穂子。
暁彦はそんな香穂子を尻目に、そっと耳元に唇を寄せた。
「早く一人前の女性になりなさい」
君がこの続きを求めるのなら、ね。
目を丸くする香穂子の瞳に映ったのは、
甘い言葉と、
優しい笑顔。
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大好きな吉羅理事の生誕祝いという素晴らしい企画に参加でき、本当に嬉しいです!
有難うございます!
初めての企画参加と言うこともありまして、とてもドキドキしながら書かせて頂きました。
設定としてはアンコールED後です。
香穂子が一人前の女性になるのを理事が待っているという間の関係が、
このお題にある「空いた時間を過ごす相手」ではないかなぁ、と思いますv
とにかく!
吉羅理事、お誕生日おめでとうございます!